東京高等裁判所 昭和35年(く)66号 決定
よつて按ずるに、刑事訴訟法第四百三十五条第六号にいう「明らかな証拠」とは証拠能力もあり証明力も高度のものをいうことは論をまたないが、しかしながら、一面それも再審の手続を開始するか否かを判定する前提として一応そのように証拠能力及び証明力があると認められるをもつて足りるというのであつて、爾後再審の審判手続において、右証拠が結局十分な証明力がないという理由によつて排斥されるということがあり得るということもまた明らかであるといわなければならない。而して、原決定が所論柿沢いつ子、柿沢恒夫、柿沢忠治、矢沢まき子らの証言並びに竹田明作成の「ナトコ映画会の開催について」と題する書面等を再審請求人小平尚重に対し無罪を言い渡すべき明らかな証拠をあらたに発見した場合にあたると認めた所以のものも、ひつきよう叙上の意味においてであつて、要するに原決定は右各証言はいわゆるアリバイに関する証拠として一応証拠能力も証明力もあると認められるから、再審手続を開始する前提としてのいわゆる「明らかな証拠のあらたなる発見」にあたると認めたものであることが明らかであつて、この点に関する原決定の措辞はやや不十分の嫌いがなしとはしないが、強ちこれをもつて原審が所論の如く右証言の証拠価値は不明であるが、若しこれを措信することができればという仮定に基いて立論をした趣旨であるとは解すべきではないから、原決定の理由に不備があるとの所論は採用し得ない。
(三宅 東 井波)